少女趣味こーなあ 長屋版

長屋の今月の少女趣味こうなあ  10


  ぼくが ここに       まど・みちお

ぼくが ここに いるとき

ほかの どんなものも

ぼくに かさなって

ここに いることは できない

 

もしも ゾウが ここに いるならば

そのゾウだけ

マメが いるならば

その一つぶの マメだけ

しか ここに いることは できない

 

ああ このちきゅうの うえでは

こんなに だいじに

まもられているのだ

どんなものが どんなところに

いるときにも

 

その「いること」こそが

なににも まして

すばらしいこと として
    

虎さん まど・みちおさんといえば、「ぞうさん」とか、「やぎさんゆうびん」というような歌もありますね。

ご隠居 九十九歳でいまも元気にされているそうや。

虎さん マメは普通いるんじゃなくて、あると言わへんか?

熊さん そうやなあ、普通はあるというような気もするな。炒るといえば炒るけどなあ。

ご隠居 いるというのは、人間や動物に使うけど、植物にはあんまりつかわんわなあ。

けどここではわざと使っているんやと思うわ。生きているもの、命あるものという意味も含めて使っているんと違うやろか。

地球上にあるものは、人間がつくったものと、そうでないものと二つに分けられるやろ。人間が作ったものは、物や。命がないねん。命がないものに、いるという言葉はつかわへんやろ。

熊さん なるほど、ご隠居、うまいこと言いまんな。

虎さん その「いること」こそが

なににも まして

すばらしいこと として
と言うてはるんやさかい、わしら店子のことも、あんなぼろ長屋にいることこそが、なんにもましてすばらしいと、思てくれな。

熊さん ほんまや、いまどきあんなところにいてくれる人はそんなおりませんぜ。

ご隠居 それとこれとは、話が違うやろ。